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2011-03-08

モネとジヴェルニーの画家たち

ちょっと前の話になるが、1年ぶりに美術館に行ってきた。雪のそぼ降るさむーい2月12日の話である。
場所は、渋谷東急本店のBunkamuraザ・ミュージアムである。
公開日時は去年の12月7日から年明けての2月17日までともう最終日が迫っていたのだが、お上品な奥様方が若い美術好みの人たちと一緒に行列を作っていた。なかなかどうして、かなり盛況だったように思える。
これまで私は日本の美術工芸品を紹介してきたが、実のところ、基本的には社会の教科書程度の知識しかない。かといって西洋画に造詣が深いかというとこれがまた全然知識のない素人同然なのだが、ただ、どちらかというと、西洋画の方が薄らボンヤリと系統が分かる……ような気がする(頼りないなあ、表現が)。

さて、モネである。「睡蓮」のオジサン、と言ったほうがいいか。或いは、日傘差した女の人の絵描いた人、と言ったほうがいいか。日傘の絵は私も大好きなのだが、今回の展示には残念ながら含まれていないので、湿潤な空気を纏う睡蓮などについて今回は語っていくことにする。

モネがフランスの片田舎ジヴェルニーに移り住んだのは、19世紀も後半、1883年のことだった。本当に小村で人口は300人程度、面子はもちろん大部分が農夫。日本で言えば、過疎の山村の3、4集落でようやくその程度と言ったところだろうか。で、モネがここに住み着くや、われもわれもと諸外国から大勢の芸術家たちが村に飛び込んできて、のべ300人が逗留していた模様である。

セーヌ川沿いの、正直言って絵や1900年当時の地図を見る限り、農地と川と少しの丘や林や森とちょっぴりの集落以外、なーーーーーーーーんもないところである。外国の都会から来た芸術家たちは、最初はあまりの不便さに驚いたに違いない。
ちなみに、この前駆的なものとしてはミレーなどに代表されるバルビゾン派というのがある。やっぱりフランスの片田舎バルビゾン村に芸術家が住み込んで、農夫や田舎の景色などを描いた。これは19世紀の前半の話である。

私は田舎の出身なので、そもそもこんな不便極まりない田舎にどこにそんなに価値があるのかよく分からなかったのだが、芸術家というのはやはり芸術家足りえる慧眼があるのであって、「まさか」と思うようなところに鋭く美を見つけ出し、切り取り、それをびっくりするような手腕や手段で絵にしてしまうのである。
例えば、麦わらを纏めてある積みわら。現代では作業機により立ったロールケーキのような形で纏められるのだが、当時は当然手作業でのもので、形もドーム型に近い短い円柱だった。
夕陽が、ジヴェルニーの麦畑を照らす。オレンジに緋色に黄金に、刻々と変わるその日最後の光。モネはその日没の一瞬、積みわらの陰に「赤」を見た。

恐るべき眼力である。陰のさらに陰は黒と相場が決まっている。逆光でも、灰色や濃い茶色に沈むのが常である。
モネはその最も濃い部分を選び、赤く染めた。途端、なんでもない積みわらが夕陽の眩しさを、強さを、私たちに届けてくるのだ。秋空の寒々しくも輝ける薄暮を、夕風の冷たさを、私たちは絵の前にいながらにして強く想像することができるのだ。

ちなみに、この積みわらを同じ題材として一つのポジションから時間をずらしてしつこくしつこく12枚も描いた画家がいた。アメリカ人ジョン・レスリー・ブレックである。この人はモネの絵画世界を理解しようとしていたのだが、12枚並べて観た時、アメリカ人らしい陽気で無邪気な真剣さが感じられてしまったのは私だけだろうか。もっとも、モネのあの音楽的な筆捌きはブルックにはない。感性や画力ではなく、絵を見せるというアイデアで道を切り開いた人のような気がする。

ジヴェルニーは水場の風景画も美しい。実は岩手県にある遠野の河童淵がウィラード・レロイ・メトカーフの「エプト川」やセオドア・ウェンデルの「小川」に非常によく似ているのだが、もしかしたらこの村の水場は、日本の田舎と共通するものがあるのかもしれないなと思った。
そう言えば、モネは大の日本びいきで、自宅にわざわざ浮世絵を参考にして日本風庭園を造った。太鼓橋のおまけつきである。睡蓮の葉はもちろんのこと、水辺の柳、菖蒲の黄色い花、湿潤で静かな日本の水辺を忠実に再現している。
油絵の重厚な色合いで描かれたしっとりした池の風景は、それはそれで独特の趣があり、見るものをひきつけてやまない。
ちなみに、私が行ったときは大作「睡蓮、水の風景」は一足先に展示が終了していた。もう少し早く行くべきだったと、珍しく購入した記念画集を見ながら、只今後悔している。

田舎の風景にはさほど楽しいものはなかろうと踏んで入場した私だったが、終わってみると頭に残っているのは圧倒的に村や広大な畑や自然の風景であって、期待した内輪の人物を描いた作品は逆にあまり心に残らなかった。
ジヴェルニーに滞在した画家たちは、モネ始め、皆やはり素晴らしい審美眼を持っていたのだなと思いながら、帰途に就いた。

なお、私が個人的にもっとも心惹かれたのはイギリス人のドーソン・ドーソン=ワトソンが描いた、2枚のジヴェルニーの昼間の路地風景である。眩く、それでいて平和な空気が、白っぽい路上から漂ってきそうなのだ。
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theme : 美術館・博物館 展示めぐり。
genre : 学問・文化・芸術

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Chiduru.Y.

Author:Chiduru.Y.
小説を書いています。
しばらく更新が途絶えていましたが、また肩の力を抜きつつぼちぼち書いていこうと思います。

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